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創作童話とおいしいコーヒーが楽しめます。

風邪をひいたのでネイバーまとめ記事名メーカーつくりました。

 ポカリを飲んだときに粉っぽいとか苦いと感じたら、こりゃ風邪ひいたな、と思います。

 ゴールデンウイークの出だし3日間を、危うく何もしないで過ごすところでしたが、初日に風邪をひいたことで、ただの惰眠が意味のある休養となりました。僕の部屋では、二重窓のある壁に横付けするようにベッドがおいてあるのですが、この二重窓がまあ役に立たない。寮がたてられてから30年間、歴代のこの部屋の住人たちが窓の桟の掃除を怠ってきたせいで、北海道の冬を耐え忍ぶためにつくられた二重の防衛ラインにはほこりがたまり、今やその機能は絶えて失われているのです。そこへ春らしさに気が抜けた僕らへの容赦ない寒波がやってきて、はれて風邪をひいたというわけ。頭がんがん耳ぼーっとして鼻水がとまらないなんて典型的な風邪を久しぶりにひきました。

 で、日がな一日寝続けながら、馬鹿にしつつもついネイバーまとめとかをひらいては、頭にゴシップとヘンなダイエットとこの春の流行の最先端のことしかないひとが、頭にゴシップとヘンなダイエットとこの春の流行の最先端のことしかないひとのためにつくった記事を読んだりしていました。脳が風邪にやられているのでとても楽しめました。

 記事の内容のテンプレートさ(初めに問題提起があって、つぎに記事の話題になってる単語を検索して適当にひろってきたツイートがあって、そのへんのネット記事をざく切りにした引用と、それをオウムのように繰り返すだけのコメントが載ってて、ところどころに、スーツ着て悩んでる外人とかカフェでパソコン開いてる女性の画像(「byアマナイイメージズ」という文字が画中に飛蚊症のように半透明になって浮いてる)がはりつけてあって…)もさることながら、みんなおんなじ人が書いてんのか?と思うような「そーなんだ!春は花粉症がヤバいらしい…」とか「ちょっとまって!歯磨粉をそのままたべると健康に悪いみたい。。」みたいな記事のタイトルがいいですよね(まとめタイトル風にいうと「いい感じ♪」)。それで、ひょっとしたらこれは特定の独立語(「まじか!」「ちょっとまって!」「何それ怖い…」等)と修飾語(「いま話題の」「春の」等)と主語(できるだけネットに転がってそうなワード)と述語(「ヤバいらしい…」「行ってみたい!」等、なるべくくそどうでもいい主観があらわれているものが望ましい)をランダムで組み合わせるだけでつくれるんじゃないかとおもい、以下の診断メーカーをつくりました(名前を入力して診断をすると、7万通りの組み合わせのなかからランダムで選ばれた文字列が生成されます。名前を変えると結果もかわります)。レーモン・クノーの『百兆の詩篇』みたいな?

shindanmaker.com

 やってみると、

まじで!?パリジェンヌの「マグカップダイエット」が面白い

なんてものや、

 行かなきゃ損…!インスタ映えする「新スポット」から目が離せない!

 といった割とふつうにありそうなものから、

 超便利 ガチでつかえる練り香水がどれもおいしそう♪

おしいやつまで。みんなもやってみてね。

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カフェで仕事をするビジネスウーマン[10367007239]| 写真素材・ストックフォト・イラスト素材|アマナイメージズ

 ちなみに、

まじで!?ずぼらのための料理レシピがめっちゃ優秀

というそのまんまありそうなやつをグーグルで検索してみたら、ほんとにネイバーまとめとクックパッドのページばっかりでできて面白かったです。だれかクックパッドの料理名メーカーもつくってください。

 

 

ナポリ・ナポリ・ナポリ

 ナポリ。手元のプリントに、もう一本棒線を書き加える。正の字が横に4つ並んだ。つまりいまのナポリが、僕が数え始めてから通算20回目の、この45分の内に、前で立っている発表者が口にしたナポリなのである。こうして足し算をしている間にも、16世紀フランドル派の画家のある画業とその意義を紹介する発表者は、なにか救済のための祈りの言葉を必死で繰り返す信心深い農民のように、手をこすり合わせながらナポリナポリと口にしていた(えーナポリでは、まあナポリの、ナポリ港はというと、やはりナポリ、ヴェスヴィオ山とナポリという取り合わせがですね)。ナポリ。発表が1時間ほど続き(質疑応答のあと、担当教官は、「ポスター発表というのはだいたい10分くらいで発表を終わらせたいものですね」、と一言いってこの授業を締めた)、残りの30分でどれだけこの記録が伸びるか予想していると、ふいに自分が、ナポリという言葉をきくたびに、舌と鼻のおくでかすかな幻影を知覚していることに気付いた。ナポリ。懐かしい(行ったことがあるわけではない)。甘くて白い、チーズのようなにおいと味とがかすかにするクリーム。思い出す。高校のパンの自販機で売られていた「ナポリチーズ」とかいう名前のパン。ナポリと耳にするたび、ナポリチーズを、想像上の舌が味わっていた。

  高校生活をドラマチックに仕立て上げるもの、すなわち4月に高校へ進学したての事実上中学4年生のようなこころとからだとを無理矢理ブレザーに押し込んで、たいして長くもない休み時間に校内を歩きまわる新高校生を魅了させるもののひとつに、中庭をつっきって普通科と工業化をつなぐ渡り廊下に設置された自動販売機がある。飲み物の自販機は3種類で、ひとつだけ、パンの自販機がゴミ箱と紙パックの自販機の隙間に収まっていた(のちに、深夜、何者かによって初代校長の像に剣道の面がかぶせられ、校庭の中央にカラーコーンが整列させられた際に、教員の自転車が上にのせられた自販機でもある)。お金を入れて、任意のボタンを押すと、ガラスの向こうで陳列されたパンがくるくると、はさまっていたばね状のものから解放され、すとんと受け取り口におちてくる。このタイプのこの自販機は、それまでヘルメットをかぶって自転車で行ける範囲と隣の市のジャスコくらいしか行ったことのなかった鼻たれ小僧にとっては初めて見たものだったので、週に2、3回は、お昼休みか放課後に、小銭を持って渡り廊下へ行ったものだった。しかしながら、自販機の中身は、地元のパン屋が売っている惣菜パンや菓子パンばかりで、とくに目新しいものはなかった、ナポリチーズを除いて。

 ナポリチーズは、三角のかたちをした食パン2枚のあいだに、例のチーズともクリームともつかないなにかが塗られ、全体を黄色くかりっとやきあげたものだ。たしか140円で、自販機にはナポリチーズと書かれているのに、当のナポリチーズをつつむビニールには、商品名:トライアングルと書かれていたことを覚えている。このパン屋の怠惰さが、トライアングルもといナポリチーズ(あるいはナポリチーズもといトライアングル、ナポリチーズまたの名をトライアングル)を一層捉えがたいものにしていた。しかし何より特徴的なのは、やはりその味とにおいで、卵由来の何かでコーティングされたパンをかじると、鼻のおくにいつまでもとどまりつづけるねっとりとしたチーズのかおりと、かすかに伸びて舌にくっつく甘いチーズ風のクリームが、生まれてこの方、フレンチトーストもチーズクリームも口にしたことのないからだに深く記憶された。その記憶が、かつての僕と同じ、ナポリ信奉者からの祈りの言葉によって呼び起こされたのだ。

  記憶はときどき、ヴェスヴィオ山のように唐突に噴火し、ポンペイ遺跡のごとく、昔を今へ呼び起こすのだ。

やわらかい部屋とやわらかいメルロ=ポンティ

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 僕の寮の狭い個室の真ん中にこうしてすわっていると、自分がこの個室に包まれている感じがします*1。やわらかくて伸縮性のある一枚の布、ぴんと平行に張られた大きな布があって、その上から僕がダイブして、ぎゅうっと布が僕の体重と衝撃によって沈んでいき、下に垂れていくことで段々とこの四角い個室を形成したかのように思われます。それくらい包まれているような感じがします*2。僕と個室とは、単に空間的な位置関係で捉えられる「あり方」ではなくて、僕と個室の関わり合いのなかに、関係性そのものにあるという「あり方」をしているかのようです。何を言っているんでしょう。夏休みにだらけすぎておつむをとじている紐がのびきってしまったのでしょうか。でも、面白いのでもう少しこの病人のいうことを聞いてみましょう。

*1:1年後の追記:しません。

*2:1年後の追記:「ぼくの部屋はぁ、閉所恐怖症のひとなら発狂するくらい狭くてえー圧迫感があります」を人に伝わりづらく書き換えるとこうなるみたいです。

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