眠れない日の立原道造―あるいは、(世界中はさらさらと粉の雪)

「初秋」 夜、窓をひらくと、あたらしい油絵具のにおいがぷんとした。近所に絵描きのアトリエなどある筈はないので不思議に思うと、明るい月が隣の家の屋根に絵を描いているのだ。仕事を邪魔しては悪かろうと、窓をとじていたら、やがて一なすばかり、こっちの窓ガラスにも、透明な水銀色を塗って行ってくれた。それが、夜…