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hinodemukaidori

『あそこには日蔭もあり、風もほどよく吹いています。それに、草が生えていて坐ることもできるし、あるいはなんでしたら、寝ころぶこともできます。』   (藤澤令夫訳プラトン著『パイドロス』)

ゴスロリと昼下がりと

あったこと

あ…!ブログ初心者にありがちな設立してすぐは記事やたら書きたがっちゃう病だ!そのくせすぐ飽きるからしばらくすると何か月も放置しちゃうんだ!あいや、せっぱ詰ると現実逃避したくなる人間なので、今年度最大に切羽が詰まっている今こそこうして現実逃避したいのです。は、ひらきっぱにしていたニコニコ動画から時報が。。また今日も午前2時の更新です。

 

 昼の大通り交差点に、ゴスロリの女性がいた。少女、ではなく女性、だった。

車の往来が多いスクランブル交差点で、僕の待つ横断歩道のまっすぐ向こう側に立っていた。車と車の行き来が途切れるたびに、そのピンクを限界まで薄めたような白色のフリフリの服と、菊の花をひっくり返したようなスカート、これでもかととがった先の大きな傘が見えた。日傘だろうか、恐らく防水機能はないだろう。ほかの機能に特化しすぎている。殺傷能力とかね。

冬の都会の空の下、雪とも違う薄ピンク色をした夫人は昼休みのサラリーマンたちにはどうも異様に映るらしかった。らしかった、というのは僕には少しゴスロリはなにか違ったことを思い起こさせたからだった。

 

 

 僕の進学した高校には学校指定制服がなかった。というより、僕の住んでいた県の高校の多くは指定制服がなかった。どういう経緯なのかはわからないが、少なくともうちの高校は生徒手帳を見る限り、学生運動らしいことをしたいが特に主張や不満もない生徒たちが指定制服に目を付け、結果生徒会があれこれがんばって制服撤廃を勝ち取った、ということらしい。

 ところが幸か不幸か、偉大なる先輩たちの努力むなしく、生徒の多くは現在制服を着ている。私服で登校するのは、毎日着るものを考えるのがめんどくさい。これが理由だろう。といっても確かに「学校指定」ではなく、みんな「なんちゃって」制服である。

 高校と同じ地名の付く商店街にはシャッターが閉じっぱなしの店が多い中、1軒だけ春になると新高校生でにぎわう「もりづみ洋服店」という店がある。狭い店内にはこれでもかと多様な種類の制服がひしめき、ブレザーから学ラン、男女どちらの制服も取り揃えている。お店の人曰く女子の制服なら県内1、男子の制服なら日本1の品ぞろえだという。高校に受かった新1年生たちはこぞってこれから3年間の高校生活の舞台衣装となるお気に入りの制服を探すのである。ハリーポッターでいうところのオリバンダーの店みたいなもんか。

 制服といってもほとんどはブレザーである。そうして入学後初めて入った教室は実にたくさんの種類の制服を着た男女で溢れていた。これだけ種類が豊富だと、逆にブレザーのズボンの柄がかぶったりするとお互い恥ずかしがったりする。今考えるとなんとも不思議なものである。school uniformがぜんぜんuni(単一の)ではないのである。慣れてくると逆に女子たちは中学の頃の黒セーラーをみんなで示し合わせて着て登校したり、夏になり下はブレザーで上は私服でくる生徒に「私服なんて珍しいね」と言ったりする。自分たちが着ている制服も一応、私服である。

 

 とまあこんな具合に個性を消す役割を持つ制服が、逆に個性を出す役割を担う高校だった。またクラブ活動によって、野球班(班は他校でいう部)は規律が厳しいのでみんななんとなく学ラン、などキャラクターの能力によって制服が違う漫画の世界のようであった。

 そんな個性をみんなが制服に求めるのに必死ななか、4月のみんながそわそわする教室にさっそうと現れた女生徒がいた。教室の扉が開くたびどんな人が入ってくるのだろう、と目くばせする生徒たちは急に無言になった。

 そう、ゴスロリである。

 負けた。というかゴスロリはなんというかもうルール違反ではないだろうか。これにはみんな参った、という他ない。そんな高度なドレスコードをあっしたちに要求しないでくれ、という感じである。制服というジャンルに固執してみみっちいく個性を出し合っていた僕たちのひとつ上をいっていた。

 その後3年間、彼女は確かにゴスロリを貫き通した。初めはみんな戸惑ったが、1学期が終わるころになるとゴスロリという記号は僕たちの制服とおなじくらいの意味しかもたなくなった。彼女も周りの物珍しげな眼を臆せず、むしろ慣れてきたのか2年の文化祭の頃には「写真一緒に写りましょうか?」と茶化しに来た先輩たちにも気さくに接していた。

 こういうわけで、白日の下、サラリーマンたちと同様に信号待ちをしているゴスロリの女性はなんだか懐かしかった。むしろみんな同じ格好で日差しが暑いのに着こんでいる黒スーツのサラリーマンたちのほうが異様に思えた。

 そんなことを考えていると、信号は青になり、僕は歩き出した。向かいのゴスロリの女性も歩き出した。横断歩道の真ん中で、交差した。ゴスロリの思い出は、その女性と同じく僕の後ろの過去の方へとまた消えていった。

 

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ひとつだけ思い出したけど、3年のとき学校の汚い下駄箱の傘置き場にファンシーなゴスロリ傘がささっていて、ハレとケとはこういう事か…と感じた。夏の放課後。