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hinodemukaidori

『あそこには日蔭もあり、風もほどよく吹いています。それに、草が生えていて坐ることもできるし、あるいはなんでしたら、寝ころぶこともできます。』   (藤澤令夫訳プラトン著『パイドロス』)

いいかんじの喫茶店

 ほどよくワインを3本ほどあけた、紅白いりまじるほんわかな脳で、明るい日曜日を思って一筆。

 

 昨日の夜、すなわち花の金曜日の晩、バイトのあとの酒池肉林、焼肉と飲み物のために頭が楽しくなってしまい、その後寮のロビーでローションの池で転び頭ににぶい振動を響かせることでスタートしたこのウィークエンド(まだ転んだ時ぶつけた左足と心が痛い)。土曜の午後は、そんなけがれた過去を払しょくするために、友人と喫茶店に行ってきました。

 「お食事処」というのれんと、すりガラスの向こうに「正油ラー四二〇円」とかかれた紙が置かれていることから、どうやら「お食事処」であるということだけは疑いようのない、こじんまりとしたビルと、角煮をやたらと前面に押し出しているお食事処に挟まれた、狭い路地に面する細長い入口。リバイバルなのかそれともほんとに古いオリジナルなのかさっぱりな、日に焼けた演劇のポスターが張られたせまい階段は、石造りの店内へとつながっていた。

 おじさんなのかおばさんなのか判断にこまる、短く刈り込んだ白髪のマスターは、心の中でおざさんと呼んでおく。石造のブロックで囲まれた店内は、石の吸い込んだ湿っぽい空気と、冷たい土のにおいをそれとなくしかし確固としたようすで鼻へ提示してきた。「本日のケーキの、リンゴとアーモンドのタルトを」コーヒーもつけて630円。

 この石のにおいは、どこかなつかしいにおいだった。長野の片田舎に生まれた身としては、この湿気をすっかり吸い込んだ石のにおいは、小中高と何かしらかこつけては、道徳授業の一環でいった、松代大本営の地下壕のにおいを思いださせる。あの場所の背負った鬱屈とした歴史からいくと、こうした感想はひじょうに不謹慎なんだろうけど、あそこのにおいは湿り気と涼しさがあって、子供心に魅了された(なくしたことのない、忘れるも何も経験していないノスタルジーを体験するというのも変な話だけど)。さわってみると、壁は確かにつべたくてきもちよかった。

 僕にはいけない癖があって(『猿面冠者』の言いまわしのパクりですね)、いいなと自分が思ったところでは、誰かと一緒にその場所で時間を過ごす妄想をよくする。ここではこんな話とかしたいな、ここであの本とか読んでみたいな、とか。というかそんな妄想をさせるところが、自分にとってのいいところなんだと思う。順序が逆。

 小中学生のころのノスタルジーの雰囲気は、時間軸をゆがませて、大学へはいったころや2年生ころの自分のことも郷愁として思い出させる。『パイドロス』に感激したことが懐かしいな…、あのころはもっと謙虚だったのにな…。そのあと本屋で立ち読みして買った、ロラン・バルトの『恋愛のディスクール・断章』にも『パイドロス』の名前が。そこの大きな本屋にはスーザン・ソンタグ*1や、ガストン・バシュラール*2R.D.レイン*3メルロ=ポンティ*4といった大学へ行ってから僕がかぶれたひとたちの本がずらりとならんでいてほんとうにたのしい。こうした本や、それよりもっとたくさんよんだ小説の話が、もっとできたらいいんだけど…。

 さっきいったとおり、ここと、それから今これを打っている僕の頭の中では、過去の思い出がそれより新しい過去をノスタルジーとして思い起こさせたりと、時間軸はぐちゃぐちゃで矛盾をひきおこしている。これはすべて、石のにおいと、紅白のワインと手作りのナツメグたっぷりハンバーグのせいである。そしてこの過去の逆流は、氾濫をひき起こし、現在の僕の時間も泥水でうすめたため、気がつけばあっというまに日曜日の朝4時だ。ちょうど、僕が徹夜明けの朝のテーマと勝手に読んでいるこの2曲がリストから流れ出した。

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 僕が太宰の作品をすきなのは、主人公のヒステリックな感情やひらきなおりが、物語の展開にもちいられているからだ(適当に全集をひらいたら、例はすぐみつけられる。そしてすぐに、こうした評価は太宰以外にもあてはまる、陳腐な評価だとわかるだろう)。太宰の作品が思春期の子のはしかみたいなものといわれるのもこのためだろう。抑えきれなくなった感情のぶつけかたや、そこへいたる鬱屈を表すのが、きっとうまいんだ。僕にはわかんないけど。でも今の僕はそんな感じのこころもちだ。さあ2000文字へいくまえに、とっとと寝てしまおう。

 

*1:やあソンタグ![ノートブックには日付なし]!

*2:やあバシュラール!科学哲学者として、個人的な解釈をしりぞけて、イメージをみつめようとつとめてきたが、この「慎重な」態度そのものが、イメージに直接的な力があることの証明になってはいないか!かっこいいー!

*3:やあレイン!世界や自己は空想の中で灰燼に!

*4:やあメルロ=ポンティ!自分自身の端緒がたえず更新されていくよ!