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hinodemukaidori

『あそこには日蔭もあり、風もほどよく吹いています。それに、草が生えていて坐ることもできるし、あるいはなんでしたら、寝ころぶこともできます。』   (藤澤令夫訳プラトン著『パイドロス』)

『ぐるぐる探検隊』(仮) ひのでむかいどり

 春休みが終わりそうなので現実逃避(=喫茶店で隣り合わせた男性が女性にいいていわく「ひたすら歩くこと」)に物語を書こうと思います。完成していないので、伏線もなにもないです。続きができるたびにアップしますが、完成したらたぶん消します。


Black Marble - It's Immaterial (Full Album)

(BGMだよ!はじまって1分は正直昔遊んだプラレールの駅セットの発射メロディみたいでなんだこれってなったけど、これ好きだよ!)

 日曜日の北一条交差点では、塗りたてのでっぷりとした白線の集団が、美しきスクランブル交差を形成していた。車両用信号機のランプが赤から青へ変わるまでの二・三秒の間、どんな存在からも踏まれることをまぬかれている白線たちは、アスファルトが吸収しこねた太陽光をのびのびと乱反射させていた。そこから数メート地下では、札幌‐大通地下歩行空間が地上の道路と平行に、南北を静かにつなげていた。そして交差点から一番近い、地下直結十二番出入口を降りて少し札幌駅側へ進み、左手に折れたところにあるのが、地下歩行空間第一公共トイレである。おなじみの男女のピクトグラムが、ここにトイレがあることをその細い体でめいっぱい示している。その表示の下で、私たちは立ち止まった。
「間違いなく、ここがこの書かれている公共トイレです」連続するkの発音に口を持っていかれそうに なりながら、吉川君がいう。

「ここで、この未完の物語の主人公とヒロインはラスト、離れ離れになるんだ」どうして未完の物語なのにラストがあるのかつっこみたかったけれど、めんどくさい話が始まりそうだと思い口に出すのはやめた。

「映子さんも、このトイレを使ったことありますか。こうやってチカホを歩いている分には何の変哲もないトイレだけど」映子さんと呼ばれた私は、あるかも、とだけ返した。

「あるでしょう。いや、あんまりいうと失礼かもしれませんが……少なくとも一度は」

 毎週日曜日がやってくると、私と吉川君はこの町を探検する。
 たんけん、というとなんだかわくわくして、幼少時代な感じがして、青春小説、夕方の土手のにおい(「bankには銀行のほかに土手という意味もあるから、頭の片隅に入れておいてね」という塾の眼鏡の先生の声が頭にひびいた)、あるいは陳腐なプレステの横スクロール。吉川君とのこの会合も、そういった側面がないわけではないけれど、待ち合わせ場所は決まって大学前のセブンイレブンで、移動中はふたりともほとんど黙っているし、吉川君はリュックからうやうやしくその本を取り出しめくっては、「もうちょっとです。今日は○○(任意の市内の地名)へいくのにいい日和ですね」と信じられないくらいのへたくそさで話題を提供してくれる。私たちはそう(私はそう?)、吉川君が持っているその謎の本をたよりに、その本に書かれていると吉川君のいう、この市内のさまざまな場所をめぐるのだ。
「吉川君は、この不定形で広大な街にかたちをあたえようとして、この物語を利用しているのね」私はしばしばそういった。